ゆりかご板北米の先住民の背負いゆりかご
赤ちゃんを板や枠にくるんで留め、背負ったり立てかけたりする、北米の先住民の道具。部族ごとに呼び名も形も違い、親族が手をかけて作り贈る品でもあります。古い時代の出土品から、今も続く作り手の営みまでを紹介します。
北米(アメリカ合衆国・カナダの多くの先住民)古代(南西部のバスケットメーカー文化の出土品)〜抱っこ・おんぶ今も続いている
概要
ゆりかご板は、赤ちゃんを板や木の枠に布や皮でくるみ、ひもで留めて使う道具です。英語では cradleboard と呼ばれます。母親は赤ちゃんを背負って歩いたり、そばに立てかけたりして、両手を空けたまま赤ちゃんを身近に置くことができました。
北米では、南西部、東部の森林地帯、北部の大平原など、多くの民族が使ってきました。アパッチ、ホピ、ラコタ、クロウ、ハウデノショーニー(イロコイ)、ペノブスコットなどです。呼び名もそれぞれで、オジブウェの言葉ではディキナーガン(dikinaagan)、ディネ(ナバホ)の言葉ではアウェーツァール(awéétsʼáál)などと呼ばれます。ミシガン州の部族間協議会は、「形や意匠は、部族や地域によって大きく異なる」と説明しています。
歴史
古い時代の出土品
アメリカ南西部、ユタ州南東部からは、バスケットメーカー文化と呼ばれる時代の小さなゆりかごが見つかっています。ペンシルベニア大学の博物館の記録によると、皮をむかない小枝2本で枠を作り、細い柳の枝を編んで背板にし、ユッカの繊維で縛ってあります。赤ちゃんを留めるひもも付いています。ニューヨークのブルックリン美術館も、紀元前1000年ごろから紀元750年ごろの時代のゆりかごの輪の部分を収めています。
大平原の板と格子
ワイオミング州のバッファロー・ビル・センター・オブ・ザ・ウェストの解説は、大平原のゆりかごを2つの形に分けています。
1つは板のゆりかごです。ネズパース、クロウ、ブラックフット、ショショーニ、北部ユート、クテナイなどが使いました。逆U字の枠に、頭まで覆う皮の袋を付けた形です。もう1つは格子のゆりかごです。スー、シャイアン、アラパホ、カイオワ、コマンチなどが使いました。2枚の細い板をV字に組み、その上の袋をビーズやヤマアラシの針の刺しゅうで飾りました。
使うことを止められた時代
先住民の文化を抑えようとした白人の宣教師や社会改革者が、ゆりかご板を使うのをやめさせようとしたこともありました。そのため、作り方を知る人が減ったと伝えられています。
子育ての風景
赤ちゃんが生まれるころ、家族はゆりかご板を用意しました。大平原では、ゆりかご作りは女性の手仕事の中でも特に重んじられてきました。
ラコタの女性プリティ・イーグル(ミセス・ローン・ドッグ)は、1890年ごろ、モンタナ州のフォート・ペックでゆりかごを作りました。ガラスのビーズ、なめした皮、木、布、真ちゅうの鈴などを使い、仕上げるのに1年かかったといいます。彼女は長年、親族のためにゆりかごを作っていました。ダートマス大学のフッド美術館は、こうしたゆりかごが、新しい赤ちゃんを迎える喜びと愛情を表すように細かく飾られていると説明しています。
赤ちゃんは、やわらかい皮や羽毛、小さな毛布にくるまれて板に留められました。下には、ネズの木(ジュニパー)、細かくさいた木の皮、ガマの穂、やわらかい苔などが敷かれました。ゆりかごは、赤ちゃんを守るもの、眠る場所、運ぶ道具の3つの役目を持っていたとされます。板が倒れても赤ちゃんが守られるように作られ、飾りやおもちゃを下げることもありました。
今、赤ちゃんを寝かせる場所については公的な案内があります。アメリカ国立衛生研究所の「Safe to Sleep」や日本の消費者庁は、1歳までは寝かせるときはあお向けにし、かたく平らな寝床に寝かせ、まわりに柔らかい物を置かないよう案内しています。
今の暮らしの中で
ゆりかご板は、今も作られ、使われています。フッド美術館は、一部の地域では今も女性がゆりかごを作り、赤ちゃんへの贈りものとして受け継いでいると紹介しています。
ミネソタ州では、オナイダの作り手ダグラス・リモンさんが、2008年からオジブウェのゆりかご板の作り方を教える講座を開いてきました。受講した人には、少なくとも1人にその技を伝えることが求められていました。
ジョンズ・ホプキンス大学の Center for Indigenous Health は、2025年から2026年にかけて「ゆりかご板プロジェクト」を進めています。ナバホ・ネーション、ホワイト・マウンテン・アパッチ、ミネソタ州のホワイト・アース、リーチ・レイク、レッド・レイクの家族が、ゆりかご板を作りながら、子育てや安全な眠りについて話し合う集まりです。
ミネソタ州の法律では、保育施設は赤ちゃんをあお向けで、かたいマットレスのベビーベッドに寝かせることになっています。そのうえで、保護者が文化への配慮として求めたときは、ゆりかご板を使う許可を州に願い出ることができます。
よくある誤解・豆知識
一つの形ではありません。 板、格子、編んだかご、木の枠に付けた苔の編み袋など、ゆりかごの形は土地と民族によってさまざまです。
昔の道具ではありません。 博物館には、1990年代に作られたゆりかご板も収められています。作り方を学ぶ講座も、先住民の共同体の中で開かれてきました。ミシガン州の部族間協議会は、詳しく知りたい人は、地元の部族や共同体の人を訪ねるよう呼びかけています。
参考文献
- Asia Alsgaard「Reviving Tradition: One Cradleboard at a Time」Cultural Survival、2015年3月1日 https://www.culturalsurvival.org/news/reviving-tradition-one-cradleboard-time
- Ojibwe People’s Dictionary(ミネソタ大学)「dikinaagan」 https://ojibwe.lib.umn.edu/main-entry/dikinaagan-ni
- Inter-Tribal Council of Michigan「Infant Safe Sleep」 https://www.itcmi.org/home/departments/maternal-and-early-childhood-services/infant-safe-sleep/
- Penn Museum「Cradle Board」(収蔵品 29086) https://collections.penn.museum/collections/object/29086
- Brooklyn Museum「Cradle Hoop Fragment」 https://www.brooklynmuseum.org/opencollection/objects/135715
- Michaela Jones「Plains Indian Cradles」Buffalo Bill Center of the West、2017年10月3日 https://centerofthewest.org/2017/10/03/plains-indian-cradles/
- Hood Museum of Art, Dartmouth College「Mrs. Lone Dog (Pretty Eagle), Cradle」 https://naaer.hoodmuseum.dartmouth.edu/plains/gender-family/work-4
- Johns Hopkins Center for Indigenous Health「The Cradleboard Project」 https://cih.jhu.edu/?p=5256
- Minnesota Statutes 142B.46(Infant safe sleep) https://www.revisor.mn.gov/statutes/cite/142B.46
- NICHD Safe to Sleep「Ways to Reduce Baby’s Risk」 https://safetosleep.nichd.nih.gov/reduce-risk/reduce
- 消費者庁「Vol.640 就寝時の窒息事故に注意しましょう」子ども安全メール https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20231102/
最終更新:2026-10-17
このページは、世界の子育ての習わしを、歴史と文化として紹介するものです。子育てや医療の助言ではなく、どの方法がよいかを比べるものでもありません。赤ちゃんの寝かせ方・抱き方・食事は、自治体や小児科の案内に従ってください。